公益社団法人新化学技術推進協会(JACI)

ニュースレター 95

[奨励賞③]精密発酵によるトマト由来機能性成分リコピンのグリーン・サステイナブル生産技術とその社会的価値


著者:ファーメランタ株式会社 柊崎 庄吾、中川 明、新谷 隆史、増田 直之、杉本 明日成

 当社は、植物が長い生合成経路を経て生産する有用成分を、微生物の中で再構築する「モジュール型発酵プラットフォーム」の開発を進めている。今回のリコピン生産では、宿主となる大腸菌の代謝ネットワーク全体を細胞工場と捉え、20種類以上の外来遺伝子を導入し、10段階を超える複雑なMEP/MEV経路の各酵素発現を最適化した。さらに、共通前駆体の供給ボトルネックを解消するとともに、異性体比を工程内で制御することで、植物抽出では難しい純度98%以上の高純度結晶の取得を実現した。
 本技術の特徴は、単一製品の生産技術にとどまらず、代謝経路をモジュールとして設計している点にある。遺伝子構成の一部を組み替えることで、β-カロテンやアスタキサンチンなど他のカロテノイドにも展開できるため、多様な天然由来成分を効率的に開発する共通基盤となり得る。現在は、生産菌株の最適化に加え、ジャーファーメンターを用いた培養条件の確立やスケールアップ実証を進め、工業生産への移行を見据えた開発を進めている。
 また、精密発酵の価値を生産性だけでなくライフサイクル全体で評価するため、従来のトマト栽培・抽出法とのLCA比較試算を行った。その結果、リコピン1 kgあたりの温室効果ガス排出量は31,173 kg-CO₂eから34.4 kg-CO₂eへ約99.89%、水使用量と土地利用面積はいずれも約99.99%削減できる可能性が示された。閉鎖系タンクでの生産は農薬を必要とせず、食料生産との競合を避けられるほか、溶媒回収率95%以上や細胞残渣の肥料化など、資源循環にも配慮している。
 気候変動や地政学的リスクが高まる中、天然資源を「採る」のではなく、必要な場所で安定的に「つくる」技術の重要性は一層高まっている。本技術をリコピンから幅広い天然由来成分へ展開し、環境負荷低減と安定供給を両立する新たなバイオものづくり産業の創出につなげていきたい。
1. リコピン市場
2. 技術基盤-20種類以上の外来遺伝子を導入する多段階反応系
3. リコピン生産菌株最適化とスケールアップ実証
  左図-2Lジャーでの開発の様子
  右図-今年度中に稼働予定の3kLタンク