ニュースレター 95
[文部科学大臣賞]資源自律に貢献する非貴金属ナノ触媒の創出
著者:大阪大学 大学院基礎工学研究科 満留 敬人
水素化反応は化学産業の基幹反応の一つであり、医薬品や化成品の製造に広く用いられている。鉄は豊富で安価、低毒性であることから、水素化触媒として魅力的な元素である。しかし、金属鉄触媒は水素化活性が低く、空気中で容易に酸化して活性を失うため、高性能化は長年困難であった。
そこで私たちは、鉄とリンなどの非金属元素との共有結合に着目した。共有結合によって電子の一部を両元素間に適度に拘束し、水素化反応に有効な低酸化状態と酸化耐性を両立させる設計である。この着想に基づき、高い水素化活性と大気安定性を兼ね備えたリン化鉄ナノ結晶触媒を世界に先駆けて開発した。
開発した触媒は、従来の金属鉄触媒では進行しなかったニトリルの液相水素化に高い活性を示し、多様なニトリルを一級アミンへ選択的に変換した。さらに、アルデヒドやケトンの還元的アミノ化にも高い活性と耐久性を示した。得られるアミン類は、医薬品、農薬、界面活性剤、洗浄剤、機能性材料などの原料として広く用いられる。触媒は酸化耐性が高いため大気下で取り扱えるほか、回収・再使用も可能である。さらに、この設計概念はリン化鉄にとどまらず、炭化鉄や他の非貴金属触媒へと広く展開でき、多様な分子変換反応で従来の非貴金属触媒を上回る活性と耐久性を実現した。
本業績は、共有結合という設計基軸の導入により、低活性で酸化しやすかった鉄触媒の開発を、経験的探索から合理的設計へと転換した。豊富な元素から高性能触媒を生み出すこの設計概念は、希少資源への依存を抑え、化学プロセスの持続可能性を資源面から支える技術基盤となる。これらの成果を基盤に、資源制約と供給リスクを設計の前提に据え、豊富な元素の潜在力を結合状態・電子状態の制御によって引き出す「資源自律型触媒科学」を開拓し、その設計原理を体系化していく。さらに、産学連携による社会実装を通じ、資源制約下におけるGSCの実現に貢献したい。

