公益社団法人新化学技術推進協会(JACI)

ニュースレター 95

[奨励賞⑤]ケイ素化合物を用いたリン酸類の一段階エステル化反応による下水汚泥焼却灰のケミカルリサイクル


著者:国立研究開発法人産業技術総合研究所 永縄 友規

 リンは生命活動の維持に必須の元素であるだけでなく、難燃剤、可塑剤、界面活性剤など多様な工業製品にも用いられており、現代社会を支える重要元素である。一方で、日本は天然のリン資源(リン鉱石)を有しておらず、そのほぼ全量を海外からの輸入に依存していることから、資源安全保障の観点からもリン資源の循環利用が重要な課題となっている。国内では生活排水由来のリンが下水中に集積しており、有望な二次資源として期待されているが、その利用はこれまで主として肥料用途に限られていた。
 そこで本研究では、下水汚泥焼却灰をリン資源として利用し、リン酸の回収と有機リン化成品への高付加価値変換に取り組んだ。従来、有機リン化成品の多くは高反応性の黄リンを出発原料として製造されているが、安定なリン酸を直接原料として利用できれば、リン資源の国内循環に大きく貢献できる。本研究では、難燃剤や可塑剤として広く使用されているリン酸トリエステル類を標的化合物に選定した。
 検討の結果、ケイ素化合物であるテトラアルコキシシラン類を鍵反応剤として用いることで、リン酸を一段階で対応するリン酸トリエステルへ変換する手法を開発した。本反応は、実際の下水汚泥焼却灰から回収した粗リン酸に対しても適用可能であることを確認した。粗リン酸は、下水汚泥焼却灰を純水中でプロトン型陽イオン交換樹脂とともに懸濁し、ろ過することで調製した。この方法により、夾雑イオンの溶出をリンの10分の1以下に抑えながら、リン酸を選択的に抽出することができた。多少の水や夾雑イオンを含むこの粗リン酸であってもエステル化反応は円滑に進行し、世界的に広く利用されている難燃剤であるリン酸トリブチルをグラムスケールで合成することに成功した。本成果は、下水汚泥焼却灰を化学原料として直接活用し、有機リン化成品へ転換する新たなケミカルリサイクルの可能性を示すものである。今後はさらなるプロセスの高度化を進めるとともに、多様なリン化成品へ展開可能な変換技術の開発に取り組む予定である。