ニュースレター 94
温室効果ガス(GHG)を有用資源に変換するCarbon Looping技術
著者:静岡大学 名誉教授 福原 長寿
1.はじめに
地球環境保護のため各国は国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)で温室効果ガスの削減目標を提示しており、我国は2013年度の排出CO₂量(14億800万トン)を基準に、2030年までにその46%削減を、2050年までにネットゼロを目指すことを約束宣言した。
CO₂処理技術として著者は、CO₂のメタン化反応(CO₂+4H₂→CH₄+2H₂O,ΔH0=-165 kJ/mol)やCH₄変換後のドライ改質反応(CO₂+CH₄→2CO+2H₂,ΔH0=247 kJ/mol,合成ガス製造)、そして合成ガスから固体炭素回収を図るCarbon Looping技術を開拓した1-4)。この技術の反応プロセスは大量で効率的な原料処理を実施する構造体触媒反応システム4,5)が基軸である。
2.Carbon Looping技術
CO₂のメタン化反応で得られるCH₄は合成ガス(e-メタン)として都市ガス利用が考えられている。しかし、燃焼後は再びCO₂として排出されてしまう。そこで著者は、メタン化反応プロセス⇒ドライ改質プロセス⇒固体炭素捕集プロセスと組み合わせることで、排ガスCO₂のカーボンリサイクルを図るCarbon Looping技術を構築した。
図1にそのリサイクルフローを示す。産業排出CO₂を原料に、CH₄以外にも有用な合成ガスや固体炭素を製造する循環プロセスである。このプロセスでは、ドライ改質工程でCO₂が必要となるためメタン化プロセスは必ずしもフルパワーを求めず、むしろ半分のパワーでよい。そのためメタン化反応に必要なH₂量は量論比4よりも少ない量で済み、メタン化プロセスのコスト軽減につながる。また、捕集した固体炭素は機能性材料として利用できる。
3.CO₂の高速処理を図る構造体触媒反応システム
産業プロセスからのCO₂処理では、大量な処理とそれに伴う熱エネルギーの適切な制御が必要である。一般に汎用される触媒充填型反応システムの場合、圧力損失の増大と対流伝熱の非効率性がその実現を阻む。著者は、この解決を構造体触媒反応システム(高速で高効率な物質移動と熱移動を実現)で図り、特にガスの旋回流れ(Swirl flow)を利用したスパイラル形触媒反応システムを開発した。
図2は、スパイラル形触媒にN₂ガスを流したときの流れの数値流体力学(CFD)解析である。基材上の流れの線速度をカラー等高線で表記している。スパイラル形基材(11 mm幅×150 mm長)を縦に中心で割った(竹割り)状態の基材表面上を見ると、ガス境膜層の厚みは流量の増加でより薄くなる。触媒上での強力な旋回流れの発生は、原料ガスと触媒との接触効率を高め、また反応熱エネルギーの除去力/供給力を高める。そのことが、たとえ単位体積当たりの触媒使用量が少なくとも、反応場に高い物質変換力を付与することになる。
4.CO₂からのCarbon Loopingによる物質変換の実績
図3は構築したCarbon Looping装置であり、供給CO₂をメタン化反応場⇒ドライ改質場⇒固体炭素捕集場の連結型反応プロセスで処理する。メタン化場にはスパイラル形構造体触媒(7 mmφ×100 mm長,2本,Ru/CeO₂触媒の総量:1.8 g)、ドライ改質場にはスパイラル形構造体触媒(7 mmφ×55 mm長,6本,Ni/CeO₂系触媒の総量:0.9 g)、そして固体炭素捕集場には円筒形構造体触媒(25 mmφ×50 mm長,5個,Fe系触媒の総量:0.5 g)が設置してある。各触媒の還元後、模擬排ガス(CO₂ : H₂ : O₂ : N₂ = 20 : 44-74 : 2 : 4-34 vol%)を2.0 L/minで供給した。
このときの炭素捕集率[=捕集Cの物質量(mol/h)÷メタン化場に供給したCO₂の物質量(mol/h)]が図4である。図から、捕集率はH₂/CO₂が2.5~3.0で30%以上であり、CO₂⇒固体Cへ確実に変換されている。現在は、捕集用のFe系触媒成分を調整することでその捕集率は60%以上に高まっている。そして、メタン化場へのH₂供給が量論比以下で充分であることは、プロセスのH₂使用量が軽減されて都合がよい。Looping技術の途中における合成メタンや合成ガスの製造も高効率に実施されている。さらに、投入原料ガスのエクセルギーを基準としたプロセス評価では、本プロセスの熱力学的な利点が明らかになった。このような効率的なCO₂変換の実施には、構造体触媒システムの高い物質移動性と高い熱制御性の採用がキーポイントであり、スパイラル形触媒はその特性をより加速する。従来の触媒充填型システムでは成し得ない変換技術を提供する。
5. おわりに
温室効果ガスの工業的な処理プロセスの構築は,触媒化学と反応工学に立脚した取り組みが必要である。しかし,ここ数十年において両学理の乖離が叫ばれて久しい。SDG’sの目標達成やCOP会議の約束草案の実現,そして2050年までのCO₂排出ゼロ宣言を勘案すると、これまで以上に両学理を融合した触媒変換技術の開拓が求められる。構造体触媒反応システムによるCO₂のメタン化やドライ改質、そして固体炭素捕集との組み合わせ技術は、そのような変換技術の一例になると考えている。
参考文献
1) Fukuhara, C., et al., Sustain. Ener. & Fuels, 10/1, 211 (2026).
2) Fukuhara, C., Matsui, Y., et al., Chem. Eng. J. Advan., 5, 100057 (2020).
3) Fukuhara, C., et al., Chem. Lett., 48/3, 196 (2019).
4) Fukuhara, C., et al., Chem. Lett., 48/5, 441 (2019).
5) M.S. Hossain, Fukuhara, C., et al., J. Chem. Eng. Jpn., 56/1, 2182628 (2023).




