第1回 GSC賞

 

都築 博彦 氏、中嶌 賢二 氏、畠山 晶 氏、前川 敏彦 氏、戸谷 市三

富士写真フイルム株式会社

「水溶媒で塗布する熱現像感光フイルム」

本件は以下に述べるように、環境負荷を大幅に低減した革新的化学技術・製造技術により、使用者である医療従事者・患者にも優しく、かつ従来製品よりも大幅に品質を向上させた医療用感光材料を開発・商品化に関するものである。GSCの基本理念に掲げられている「環境負荷の低減、人と環境の健康・安全への貢献」を幅広い商品群への適用など波及効果の大きい革新的化学技術の開発と経済効果の高い製造技術により実現しており、GSCの実現に向け貢献をした。

IT技術の進歩により医療用画像診断も急速にデジタル化が進んでいる。しかし医師による診断は感光材料に露光されて得られるハードコピーが不可欠である。繊細なデジタル情報を忠実に再現するには高品質の感光材料を必要とする。また医療現場では短時間でハードコピーが得られかつ処理時に廃液を出さない熱現像可能な乾式ハロゲン化銀感光材料が最も望ましい。しかしこれまでは有機溶媒塗布による技術しかなかったので、製造時に大量の有機溶媒が排出されるだけでなく爆発等の危険性もあった。また、使用時にも製品中に少量残留している溶媒が加熱により放出され臭気を伴うので、現像処理する技師だけでなく、医師や患者にも不快感を与えることがあった。

本受賞技術では従来大量に用いていた有機溶媒に代え、本来疎水性の有機銀塩の水系塗布を実現しかつ高画質な乾式熱現像感光材料を開発商品化した。まず製造工程では、新規な水系ラテックスバインダー・超微粒子分散・塗布製造技術を開発した。これにより有機溶媒排出量が大幅に減ったことにより環境負荷が低減しただけでなく、有機溶媒への暴露や爆発など製造従事者の作業安全性が大幅に改善した。また塗布層が親水性なので使用後に支持体(PET)を簡単に回収し再使用できるようになった。排出有機溶媒量は近い将来1万トン/年以上削減されると推定されている。

こうして作られた医療用感光材料はメンテナンスフリーの熱現像処理機に通すだけで、廃液を全く出さないかつ短時間に高品質の医療用画像として出力される。本技術によるハードコピーは塗布時の有機溶媒を含まないので大量に使用する大病院では特に医療従事者に好感を持って迎えられ、急速に普及している。この技術は本質的にIT技術と組み合わされたデジタル画像からのハードコピーには最適であり5年後には全世界で2億平方メートルに達すると推定されている。また医療用画像以外分野での利用・普及も期待されている。

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